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舞が結ぶ祈りの輪 ― 備中神楽、三つの魂が響き合う日

太鼓の音が胸を打ち、神々が舞台に降り立つ。
高梁の夜を照らす明かりの中、面の奥に宿るまなざしは静かに、そして力強い。
11月29日、高梁市で「備中神楽」「石見神楽」「芸北神楽」の三つの神楽が一堂に会する。
中国地方を代表する祈りの舞が集う、特別な一日だ。

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備中神楽 ― 千年の祈りが息づく舞

備中神楽は、神々への感謝と五穀豊穣を願う奉納の舞として、
この地で千年以上受け継がれてきた。
太鼓と笛の音に導かれ、神々が面をつけて現れ、剣を振るい、
人々の幸せを祈る姿を演じる。
その舞には、古代から続く「神と人が共に生きる世界」が息づいている。

中でも、天岩戸や大蛇退治などの演目は迫力満点。
観る者はただの観客ではなく、舞台と一体となって祈りを分かち合う。
神楽はこの土地の祭りや人の暮らしと深く結びつき、
世代を超えて受け継がれてきた“生きた文化”なのだ。


若き舞手 ― 女性神楽師・藤原里菜の挑戦

「太鼓の音を聞くと、体が自然に動くんです」
そう語るのは、女性神楽師・藤原里菜さん。
備中神楽の発祥の地に生まれ、兄の舞う姿に憧れて5歳から神楽を習い始めた。
いまでは、女性として初めて神楽の舞台に立ち、市内外で活動している。

藤原さんが心を寄せる演目は「大蛇退治」。
「素顔で挑む『大蛇退治』は体力勝負。息が上がるほど激しい所作の末に一太刀を振り下ろす瞬間、神の力に背中を押されるように感じます。」
そう語る目には、舞台にかける真っ直ぐな情熱が宿る。

「面をつけた瞬間、私はただの“舞手”になります。
神楽には、性別も年齢も関係ありません。
見る人の心に何かを残したい――その思いだけです。」

藤原さんの舞は、観る者の胸に静かな熱を灯す。
伝統の継承は、形を守ることではなく、
その心を次の世代へと受け継ぐこと。彼女の姿は、その象徴だ。


三つの神楽が響き合う ― 備中・石見・芸北

備中、石見、芸北――
それぞれの土地で育まれた神楽は、同じ“祈りの舞”でありながら、
旋律も舞のリズムも異なる。
石見の華やかさ、芸北の力強さ、そして備中の温もり。
異なる個性が響き合うことで、新たな感動が生まれる。

「同じ神楽でも、音の取り方や間の取り方が全然違うんです。
その違いこそが面白いし、地域の誇りでもあります」
― 藤原里菜

三つの神楽が同じ舞台で交わるこの機会は、まさに一期一会。
太鼓の一打ちに、土地の風と人の祈りが宿る。


舞の灯を未来へ ― 継ぐ人たちの想い

「神楽は、見る人の心に“何か”を残す力があると思うんです。
その瞬間の感動を、次の世代に伝えていきたい」

藤原さんの言葉には、舞う人だけでなく、この文化を支える地域の想いが重なる。
神楽は、ただの舞ではなく“地域の心”そのもの。
その灯を未来へとつなぐ人たちがいる限り、
祈りの音はこれからも高梁の地に響き続けるだろう。


舞う人、見る人、支える人。
そのすべてが一体となる瞬間――。
11月29日、高梁で響く太鼓の音に、
あなたもぜひ耳を澄ませてみてほしい。

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